第13回 パスタ~その3~

日本のパスタの伝来は、第二次大戦後アメリカから入ってきたもので、イタリア直輸入でないというゆがんだ事情がります。

私が1988年に、現在のニノ・ペペローネという店をオープン した当時は、多くの人は、イタリアの食べ物だと思いながら、アメリカから 入ってきたパスタを日本人のイタリアイメージで考えられたナポリタンなどのパスタを気にもせず食べていたのです。ですから、イタリアの名前でネーミング した当店のメニューはイタリアでは最もオーソドックスなパスタを選びカタカナで書いて、内容の説明を入れたにもかかわらず、「何だかわからないメニューだ」 とよく言われたものです。

東京あたりでは、それ以前からイタリア料理というより、パスタ専門店が話題を少しづつ集めていましたが、それは、あさり・しめじのスパゲッティーとか、納豆のスパゲッティーとか、和風パスタで伸び初めたものなので、日本におけるパスタの事情は、幹の無い枝・葉だけが伸びて、イタリアからパスタは、さらにはなれて行ったと思っています。

ここ数年、イタリアのパスタが少しづつ理解されはじめ、さらに正しくわかっていただきたいと思い、このコラムも書き始めたということなのです。

前説は、この位にして、今回はパスタに関するちょっと意外な話などを少し上げてみました。

  1. イタリアにもナポリタンスパゲッティーはある!
    現在では、ナポリタンという名のスパゲッティーが、日本だけのもので、本場イタリアには無いことをほとんどの人?は認識していることでしょう。
    しかし、イタリアには、トマト系のソースの仲間に、サルサナポリターナという肉とトマトを合わせ、煮込んだソースがあります。このソースで、スパゲッティー を仕上げれば、それはスパゲッティー・コン・サルサナポリターナということになるでしょう。つまりナポリタンスパです。ケチャップであえて、ハムやピーマン を入れる日本のナポリタンというネーミングは、イタリアのナポリタンソースとは、全く無関係に発祥したものです。
  2. イタリア製パスタは、イタリア製ではない。
    イタリアのパスタの歴史は、南イタリアのプーリア産のデュラム小麦と共に 発展して来ましたが、現在では、イタリアの主なパスタメーカーは何種類もの デュラム小麦をブレンドした方が美味しいパスタができる!という積極的理由から、カナダやアメリカなどの他の国からの輸入品も多く原料として使用しています。
  3. ジャポネーゼという名のスパゲッティー。
    これは人に聞いた話ですが、ローマ市内のスパゲッテリアでジャポネーゼ (日本風)という名のスパゲッティーをメニューから見つけたので、醤油味を 予想してオーダーしたところ、出てきたものは、タバスコ味の辛いスパゲッティー だったそうだ。日本人がスパゲッティーにやたらタバスコをほしがるので、店主が なかばあきれて、皮肉たっぷりで、タバスコをたっぷりかけただけのスパゲッティーをつくり、ジャポネーゼ(日本風又は日本人)と名づけた らしいのです。
    良し悪しは別にして、イタリアには、パスタにタバスコをかける習慣はありません。
  4. フォークはパスタのために生まれたお話。
    その昔、ナポリ国王フェルナンドⅡ世は、パスタ大好き人間でした。
    しかし、当時手で食べるものであったパスタは、正式な晩餐に出されることはありませんでした。どうしてもパスタを晩餐で食べたかった国王は、式部官 ジェンナーロ・スパダッチーニにもっと上品にパスタを食べれる道具を考えるように命じ、彼が考え出したものは、当時先が2本か3本で長くとがったフォークを口に入れても危険でないように短くし、先を4本にしたものだった。それが、現在のフォークとなった。とさ。
  5. 世界一”こし”にうるさい日本人。
    イタリアンパスタは、同じ麺類でも、そば・うどん・ソーメン・ラーメンの たぐいとは、味付けの考え方、麺の味の引き出し方がまったく違い、ソースと味を パスタにしっかりからめて、味付けするのが基本です。いくらかこしがしっかり したパスタでもベシャベシャのソースの中で、さっぱり味の麺が、およいでいるような仕上がりでは、イタリアのパスタ料理としては、ブォーノと言われることは ありません。
    日本人は、こしばかりにこだわる傾向がありますが、場合によっては 少しくらいならこしを落としてでも、ソースをからめてくれ、と言われる事もあり、 特に北イタリアの人の中には、やわらかい麺がお好みの人も少なくありません。 アルデンテ感は、南に硬く→北に柔らかい傾向にあるのです。
  6. パスタの茹で方常識のうそ。
    パスタは大量の沸騰した湯の中でグラグラと踊るように茹でるものという常識が あるが、パスタの表面は、ソースがからみやすいように工夫されているものが多く 必要以上に湯の中で麺が動くと、麺同士がこすれ合い、パスタの表面が本来の状態 で茹で上がらないことがあり、沸点が保てれば、湯の中で、あまりパスタが あばれない方が良い。そして、塩は、予想するよりずっと多く入れるべきもので、 沸点を上げパスタ同士のくっつきあいを防ぎ、デュラム小麦と水によってできた グルテンの凝固を高めこしを強くするのです。
    本来岩塩を使用しますが、パスタ 100gに対し、1リットルの水に20gの塩が基準になり、多少変える場合も ありますが、水は100gのパスタを茹でる時でも2リットル以上必要で、 その比率で、塩を加えます。
    パスタは、食品のレベルをはるかに越えた美しいデザイン機能美を持ち、 郷土性・名前・種類の多さ、料理としての幅とイマジネイションの豊かさや楽しさ があり、それはまさに、イタリアそのものとも思えて来る。
    そしてパスタは
    1. 「手軽で」=「気さくで」
    2. 「美味しくて」=「また会いたくなる楽しさ!」
    3. 「満腹感があり」=「個性的で印象が濃く」
    4. 「保存性が良く」=「アイデアが豊かで気が利いて」
    5. 「ヘルシーで」=「神経性胃炎の人などいなさそうで」
    6. 「エネルギー効率が高い」=「エネルギッシュな」
    イタリアの人達にも重なって来るような気がする。
    世界中で愛されているこのパスタは、イタリアが世界に誇る食べ物であると共に、 イタリアのプライドでもあるのでしょう。

~1999/11/28、12/13掲載~