最終章 地域の食の文化とお店

今回は、イタリアブームなどと言われて10年以上になる今日仕事上感じている事を書いてみたいと思います。

私どもニノ・ペペローネというトラットリアをオープンして月日が経ちましたが、開店した88年当時ティラミスなどというデザートを知っているお客様は ほとんどいらっしゃいませんでした。しかし現在ではティラミスはもとよりカルパッチョだのペペロンチーノだのとお客様の知識はたいしたも のです。

しかし食の時間に対する感覚はランチタイムはともかくとしてもディナータイムに至ってもラーメンを食べに行く。ギョーザを食べに行く。スパゲッティーを食べに行く的な食品そのものに対するあまりに直接的なイメージが強いように感じます。

あのイタリアブームから私達が本当に学びたかったのはやたらに料理の名前を覚える事ではなく、イタリアの人達の食卓の楽しさ豊かさだったと思います。

その点においては一部の人たちをのぞいては昔も今もこの地では残念ながらあまりに変わり映えしていないと感じます。

当然、日本人とイタリア人とでは食べる量も食べ方も違いはあるが、た とえばレストランに行ってメニューブックを手に今日はどんな前菜を食べてそれに合う飲み物は何を選んで次のパスタは・・・。と今日のオーダーを組み立てることなどから楽しめるような食の時間の持ち方ができ たらもっと豊かな時間がそこに発生して来ると思うのです。

ともかく洋の東西、楽しみ方は人それぞれだけど"食べにいく"だけの感 覚からプラス"食の時間を楽しみに行く"的感覚の人が増えて来た時、イタリア料理に限らずブームに振りまわされる事のない本当の食文化み たいなものが、この地にも根付きはじめたと感じられるのかも知れません。 また我々食の文化を提供する側も目先の集客や利益ばかりに終始して、 自分の料理や店のあるべき方向、存在価値みたいなものを見失わず料理人としての謙虚な姿勢、この地域の食文化の質の向上に微力ながら努力した いと思っています。

そしてお客様がたにもある程度その店がどういう店か見抜く目をもってい ただき好感の持てる店があれば応援していただきたいと願っています。そうやって店というものはより良く育って行くものだと思います。

静岡の人はブームや新しいものに乗りやすいが本当に味のわかる人は少な い・・・。なんていう話しを業界内で耳にする事がしばしばありますが私 自身も元々は静岡人ですのでそうあってほしくないし静岡の人を信じたい。ああいう店にはああいう人(お客さん)が行けばいいし、そういう店にはそ ういう人が行けばよい。ああいう店やそういう店またそれらへ行く人達を 批判しているわけでは決してありません。

どこの地にもああいう店やそういう店はあり、ああいう人たちやそういう 人達もいて地域は形成されている。しかしああいう店やそういう店ばかりが増えてしまうのはいかがなものでしょうか?ニーズがそうさせるのか?もしかして近い将来この地域には、わけのわかっている食べるのが好きな人達が気軽に楽しめるような店が激減してしまうかも知れないと不安にな る事もあります。

そんな事になったら静岡人として私はとてもさみしくはずかしい。 静岡人は着る物に使う金は全国的にも上位だしファッション的に目のこえた人が多いと他の店で聞いた事があるが食に関してもそうあって欲しいと 願っています。

私の店にもまだ若いのにアンティパストからパスタとごく自然に食を楽しんでいるカップルや御夫婦、グループなどを見うけることが多くなってきましたが、そういう方々を見ると静岡の食文化、外食産業の質の将来に少し明るいものを感じ、若者達が頼もしく感じられ勇気付けられます。この地域の食文化の将来がつまらないものにならないようにどうかお客様 方よろしくお願いします。

今回でこのコラムも終了となりますが店でお目にかかれればうれしく思います。ぜひコラムを見たと声をかけて下さい。長期にわたりおつきあいくださりありがとうございました。(2000年 2月)

"arrivederci" 南イタリア風トラットリア ニノペペローネ 西脇一郎

■参考文献:

  • イタリア地中海料理百科事典
  • 実践新イタリア料理
  • イタリア料理百科

~2000/2/9掲載~